心を編む糸:4つのタスクと3つの原理が重なるとき

4つのタスクと3つの原則が、一本の美しい糸のように織りなされていく様子を、具体的な会話の例を通して一緒に見ていきましょう。

実例:「写真クラブ、やっぱりやめたい…」

【状況設定】 ゆうきさんは、ずっと興味があった地域の写真クラブに申し込んだばかり。でも、初回の活動日を前にして、急に行くのが怖くなってしまいました。ピアサポーターである「わたし」に、その気持ちを話してくれました。


【会話の例】

わたし: 「ゆうきさん、こんにちは。なんだか少し、元気がないみたいに見えるけど、もしよかったら聞かせてもらえるかな?」

ゆうきさん: 「うん…あのね、来週の写真クラブ、やっぱりやめようかなって。どうせ僕なんかが行っても、みんなみたいにうまくできないし、迷惑かけるだけだよ。」

わたし: 「そっか、そんな風に感じているんだね。『行っても迷惑かけるだけだ』って思うと、足が遠のいちゃう気持ち、わかる気がするよ。」

ゆうきさん: 「うん…。」

わたし: 「ゆうきさんは今、『みんなみたいにうまくできない』って感じているんだね。ゆうきさんにとって、『うまくできる』って、どんなイメージなんだろう?」

ゆうきさん: 「やっぱり、プロみたいに、みんなが『すごい!』って言うような写真を撮らないと、参加する資格がないっていうか…。」

わたし: 「なるほど、『プロみたいに』っていうプレッシャーを感じているんだね。実はわたしも、新しいことを始める時、『完璧にやらないとダメだ』って思って、怖くなって動けなくなっちゃうことが、今でもあるんだ。でも、そんな時、『完璧じゃなくて、楽しむために行くんでもいいんだよ』って言ってくれる仲間がいて、すごく楽になった経験があるんだよね。」

ゆうきさん: 「そっか…。わたしさんにも、そんなことがあるんだ。」

わたし: 「うん。だから、一旦『うまくやる』っていうことから離れて考えてみようか。もし、写真クラブに行くことで、ゆうきさんが何か『得たいもの』があるとしたら、それは何だろう?もともと、どうして行きたいと思ったんだっけ?」

ゆうきさん: 「…ただ、きれいな景色を撮ったり、誰かと好きなものの話ができたら、楽しいかなって…。それだけだったんだけど。」

わたし: 「うんうん、それってすごく素敵なことだね!じゃあ、その『楽しそう』っていう気持ちに向かって、何か一緒にできることはあるかな? 例えば、いきなり例会はハードルが高いかもしれないから、今度の休みにでも、一緒に公園に散歩に行って、スマホで何となく写真を撮ってみるところから始めてみるのはどう?」

ゆうきさん: 「…それなら、できるかも。」


トレーナーの視点:この会話で何が起きていたんだろう?

この短い会話の中に、4つのタスクと3つの原則が自然に溶け込んでいるんだ。分解して見てみよう。

1.会話の始まり:「そっか、そんな風に感じているんだね」

  • タスク1:つながり ゆうきさんの「どうせ僕なんか」という気持ちを否定せず、「そんな風に感じているんだね」と、まず受け止めている。これは、判断や評価をせず、ただ相手の気持ちに寄り添い、安心できる場を作るためのつながりの第一歩だよ。
  • 原理2:関係を大切にする すぐに解決策を提示するのではなく、まずゆうきさんの気持ちを「本当に聞こう」としている。これは、ゆうきさん個人を「問題」として見るのではなく、ふたりの関係を、正直な気持ちを話せる安全な場所にしようとする意図の表れなんだ。

2.会話の中盤:「『うまくできる』って、どんなイメージ?」

  • タスク2:世界観(ものの見方) 「うまくできない」という言葉の裏にある、ゆうきさんだけの「うまくできる=プロみたいじゃなきゃダメ」という世界観を探求している。「どうしてそう思うようになったんだろう?」という好奇心を持つことで、ただの「悩み」が、ゆうきさんのこれまでの経験や価値観の物語として見えてくるんだ。
  • 原理1:学びと成長 決めつけるのではなく、「どんなイメージ?」と尋ねることで、ゆうきさん自身が自分の考えに気づくきっかけを作っている。これは、「助ける」のではなく、お互いの「違い」を学びと成長の機会と捉える姿勢そのものだね。

3.わたしの経験を話す:「実はわたしも…」

  • タスク3:相互性 「わたしも同じようなことがあるよ」と自分の経験を分かち合うことで、関係が一方通行ではなくなる。支援者と利用者という立場を超え、同じような経験を持つ仲間としての相互性が生まれるんだ。
  • 原理3:希望に基づく関係 わたしの経験談は、「完璧じゃなくても大丈夫だった」という希望の種をまいている。絶望的な状況にいる時、誰かの「乗り越えた物語」は、「自分ももしかしたら…」と思える小さな光になる。信頼関係の中で、新しいことに挑戦する勇気を一緒に見つけようとしているんだ。

4.視点の転換:「『得たいもの』って何だろう?」

  • タスク4:向かうこと 「クラブに行きたくない(避けたいこと)」という話から、「クラブで何を得たい?(望むこと)」へと、会話の焦点を転換している。これは、問題から逃げるのではなく、望む未来へ向かうためのエネルギーを生み出す、とても重要なステップなんだ。

5.会話の終わり:「一緒に公園で写真を撮ってみるのはどう?」

  • タスクの統合 ゆうきさんが見つけた小さな希望(楽しそう)に向かって、具体的で、プレッシャーの少ない、そして「一緒に」できる次の一歩を提案している。ここには、つながりを保ちながら、相互性を大切にし、望む未来へ向かうという、すべてのタスクが統合されているんだ。
  • 原理の統合 この提案全体が、希望に基づき関係を大切にしながら、お互いの学びと成長 を促すという、3つの原則に支えられている。

さいごに

4つのタスクと3つの原則は、バラバラに使うチェックリストじゃないんだ。それは、ひとつの音楽を奏でるための、いろいろな音符や和音みたいなもの。

3つの原則が、会話全体の「空気感」や「調子(キー)」を作り、その中で4つのタスクが、具体的な「メロディ」や「リズム」となって、関係性を深め、希望ある未来へと導いていくのかなとおもっています。

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