東京でウェルネスとリカバリーをお互いに学ぶ

Taking Action:WRAPの拡張と意図的なピアサポートの深化

~「失われた25年」を取り戻し、人生の主導権を握るための包括的プログラム~

メンタルヘルス回復のためのセルフヘルプ・プログラム「Taking Action(行動を起こす)」は、単に知識を学ぶだけの場ではありません。 このプログラムは、世界的に知られるリカバリーのツール「WRAP(元気回復行動プラン)」を中核に据えつつ、それをさらに発展・拡大させた包括的なカリキュラムです。

なぜTaking Actionが生まれたのか。なぜ「WRAPの拡張版」と呼ばれるのか。そして、そこに込められた「意図的なピアサポート」の精神について解説します。

1. 開発の背景:メンタルヘルス界に衝撃を与えた「25年」の格差

Taking Actionが開発された背景には、ある衝撃的な事実がありました。 2006年、NASMHPD(全米州精神保健局長官協会)が発表した報告書において、以下のデータが示されたのです。

「深刻な精神疾患を持つ人々は、一般人口と比較して平均で25年早死している」

この報告書は当時のメンタルヘルス界を震撼させました。早死の主な原因は自殺ではなく、心血管疾患、肺疾患、糖尿病などの「予防可能な身体疾患」でした。 この事実は、その後のリカバリー志向のプログラムにとって大きな転換点となりました。精神的な安定だけでなく、「身体的健康(ウェルネス)」や生活習慣(食事、運動、禁煙)を重視することの必然性が、ここにあるのです。

2. WRAPをさらに拡大した「包括的なカリキュラム」

Taking Actionの開発者であるメアリー・エレン・コープランド博士は、WRAPの創始者でもあります。 WRAPが「自分自身の取扱説明書(プラン)」を作ることに特化したツールであるのに対し、Taking Actionはそのプランを実際に作り、使いこなすための「土台作り」と「実践」を学ぶ、全24回の学校のようなコースとして設計されました。

その特徴は、「WRAPという強力なエンジン(道具)」を搭載し、それを人生という長い旅路でどう運転していくかを学ぶ教習所のような役割を果たしている点にあります。

3. 「意図的なピアサポート」の要素:助ける・助けられるを超えて

Taking Actionのもう一つの大きな特徴は、シェリー・ミード(Shery Mead)らが提唱した「意図的なピアサポート(Intentional Peer Support: IPS)」の概念や価値観が、プログラムの進行や人間関係のあり方に強く反映されている点です。 これまでの「支援」とは異なる、新しい仲間との関わり方を学びます。

① 「治療者と患者」ではなく「人間対人間」へ

従来の支援関係では、専門家が「診断名」や「症状」を通して相手を見ることがありました。しかし、このプログラムでは、お互いを「診断された人(患者)」としてではなく、同じ経験を持つ対等な「人間」として扱います。「何が悪いのか(症状)」ではなく、「何が起きたのか(物語)」を共有し、そこから学び合います。意図的なピアサポートの影響を感じる部分です。

② 「助ける」のではなく「共に学ぶ」

一般的なサポートグループでは、「誰かが誰かを助ける」という一方的な関係になりがちです。しかし、Taking Actionでは「相互性(Mutuality)」を重視します。 誰かが「支援する側」で、誰かが「される側」という固定化された役割を取り払います。「お互いに責任を持ち、共に学び、共に成長する」という関係性を意図的に構築します。

③ 新しい関係性の練習場所

プログラムの中では、単に仲良く話すだけでなく、以下のような「意図的な」関わり方を練習します。

このように、Taking Actionは**「WRAPという道具」と「ピアサポートという関係性」の2つを両輪として**、参加者が自分自身の力で人生の主導権を取り戻していくプロセスを強力に後押しするプログラムなのです。


【参考資料】

平均寿命に関するデータの出典

URL(原文PDF) Morbidity and Mortality in People with Serious Mental Illness (NASMHPD) (ミズーリ州精神保健局アーカイブ)

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