東京でウェルネスとリカバリーをお互いに学ぶ

精神疾患のその先へ。リカバリーの山を歩き始めるあなたに伝えたい5つのこと

1. 霧の中を歩いているような、あなたへ

精神疾患という診断を受けた直後や、症状の渦中にいるとき、あなたはまるで行き先の見えない深い霧の中に立ち尽くしているような不安を感じているかもしれません。「これまでの人生はもう終わってしまった」と、言いようのない孤独感に苛まれることもあるでしょう。

しかし、どうか安心してください。病気になったことは、あなたの人生の「終わり」を意味するものではありません。むしろ、新しい生き方を再構築していく旅の始まりなのです。

私たちピアサポート専門員は、あなたと同じように精神疾患を経験し、そこから自分らしい生活を取り戻してきた「リカバリーの先行く先達(ピア)」です。これからお伝えする5つの視点は、暗闇の中を進むあなたにとっての「灯台」となるはずです。

2. リカバリーの本質は「元の自分」への復帰ではない

「リカバリー」という言葉を聞くと、多くの人は「病気になる前の自分に100%戻ること(完治)」をイメージします。しかし、私たちが大切にしているリカバリーの定義は少し異なります。

リカバリーとは、たとえ病気による制限が残っていたとしても、あなたにとって「満足感があり、希望に満ちた、人の役に立つ人生を生きること」を指します。症状を完全に消し去ることではなく、病気という経験さえも自分の人生の一部として取り込み、成長していくプロセスそのものなのです。

リカバリーの先駆者であるパトリシア・ディーガンは、こう語っています。

「我々の生化学的な部分を変えるのではなく、生活・人生を変えること」

「完治」という過去の残像を追い求めすぎると、今の自分に不足しているものばかりが目につき、苦しくなってしまいます。「病気と共にありながら、どう自分らしく生きるか」に焦点を移すことで、過度なプレッシャーから解放され、今この瞬間から新しい人生を築き直すエネルギーが湧いてくるのです。

3. あなたは一人で登らなくていい。伴走する「山のガイド」

リカバリーの過程は、しばしば「初めて登る高い山」に例えられます。どこに崖があるのか、どう進めばいいのか分からない山を一人で登るのは、誰だって足がすくむものです。

そんなとき、あなたの隣を歩くのが私たち「ピアサポート専門員」です。私たちは「リカバリーの山のガイド」として、以下のような知恵をあなたに手渡します。

また、私たちはあなたを支えるだけでなく、医療・福祉の専門家チームに対しても「患者」ではなく「一人の人間」としての視点を伝える役割を担っています。あなたの主体性を尊重し、共に歩むパートナーとして存在しています。

4. 欠点ではなく「ストレングス(力)」に光を当てる

私たちは病気になると、「できないこと」や「失ったもの」にばかり目が向きがちです。しかし、リカバリーを加速させる鍵は、あなたの中にある「ストレングス(力)」に光を当てることにあります。

自分の中にある小さな強みを見つけて認めると、それがポジティブなエネルギーとなり、リカバリーが良い方向へと動き出す「らせん状の回転」が生まれます。たとえば「笑顔で挨拶ができた」という小さな一歩が、次の自信につながり、さらなる強みを引き出していくのです。

強みを見つけるヒントとして、以下の4つのカテゴリーで自分の宝探しをしてみましょう。

自分では当たり前だと思っていること、例えば「約束の時間を守れる」といったことも、あなたの人生を支える立派なストレングスです。

5. あなたの物語が、誰かの、そして自分自身の力になる

あなたがこれまで経験してきた苦労や、困難とどう付き合ってきたかというプロセスは、単なる「苦労話」ではありません。それは「リカバリーストーリー」と呼ばれる、世界に一つだけの専門的な価値を持つツールです。

自分の経験を語ることには、二つの大きな意味があります。

  1. 「希望の継承」としての専門性: あなたが困難を乗り越えようとする姿は、今まさに暗闇にいる他の仲間に「自分も大丈夫かもしれない」という最強の希望を与えます。これこそが、経験者にしかできないプロフェッショナルな貢献です。
  2. 自己受容のプロセス: 自分の人生を振り返り、言葉にして誰かに伝える過程は、あなた自身が「これでよかったのだ」と過去を受け入れ、新しい意味を見出すための癒やしの時間でもあります。

語る側と聞く側、その双方がリカバリーのエネルギーを受け取る。これがピアサポートの持つ不思議な力なのです。

6. プロのピアが守る「境界線(バウンダリー)」という優しさ

私たちピアサポート専門員と関わる中で、「個人的な連絡先の交換を控える」「お金の貸し借りをしない」といったルールを耳にすることがあるかもしれません。一見すると冷たく感じるかもしれませんが、これは「境界線(バウンダリー)」という、お互いを守るためのプロとしての誠実さです。

「何でもあり」の近すぎる関係は、時に過度な依存を生み、お互いの生活や心身の健康を損なう原因になります。適切な距離感を保つからこそ、次のような安全な関係が築けます。

この境界線があるからこそ、私たちは私的な感情に流されず、あなたのリカバリーを第一に考えた安全なサポートを提供できるのです。

7. 結び:リカバリーの道は、今この瞬間から始まっている

リカバリーの道は一本道ではありません。時には足が止まることも、少し後ろに戻ってしまうこともあるでしょう。けれど、完璧である必要は全くありません。失敗さえも、次の一歩をより確かなものにするための貴重な学びなのです。

この文章を読み、自分の人生について考え始めたその時から、あなたのリカバリーはもう始まっています。

最後に、あなたに一つだけ問いかけさせてください。 「今日、あなたが自分自身に対して『よくやった』と言える小さな一歩は何ですか?」

顔を洗ったこと、椅子に座って深呼吸したこと、あるいはこの文章を最後まで読んだこと。どんなに小さなことでも構いません。その「一歩」を見つけることが、明日のあなたを照らす光になります。

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